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福島家庭裁判所郡山支部 昭和46年(家)73号 審判 1971年8月25日

申立人 宗教法人○○寺

右代表者代表役員 水野永明(仮名)

被相続人亡 園部大仙(仮名)

主文

被相続人亡園部大仙の相続財産である別紙目録記載の各不動産を申立人に分与する。

理由

本件申立の要旨は、

「(一)亡園部大仙は、父園部海仙及び母同妙至の長男として、昭和五年五月一二日本籍地福島県○○郡○○町字○○△△△番地において出生し、同三二年一一月一九日右本籍地において死亡した者であるが、同人は享年二七歳妻子はなく、父母も当時すでに他界し、他に相続人となるべきものは全くない。

(二)父海仙は、本籍地にある○○宗○○寺の住職であつたが、昭和九年一二月一〇日死亡し、他の住職の兼務が続いた後長男亡大仙が住職となつたが、同人死亡後無住となつたので、一時件外実方崇良が右住職を兼務し、同三七年水野永明が住職に任命されて現在に至つている。

(三)別紙目録記載の各不動産(以下単に本件不動産という)は、亡大仙の遺産であるが、本件不動産はもと件外松本正春の所有であつたが亡大仙がこれを譲受け、同人名義に所有権移転登記を経由したものであり、いずれも申立人境内地に隣接し、従前から寺のため使用してきたものであつて、外観上申立人の所有と異なるところなく、檀徒一同も右不動産を申立人の所有と信じて疑わない程である。

(四)被相続人大仙が死亡後相続人の全くない本件においては、被相続人が生前住職であつた申立人宗教法人○○寺が遺産である本件不動産につき民法九五八条の三により、亡大仙の特別縁故者にあたると言えるから、これを申立人に分与するよう求める。」

というにある。

よつて、審案するに、本件記録、ならびに別件相続財産管理人選任審判事件(当庁昭和四四年(家)第三二七号)、および相続人申出の公告審判事件(当庁昭和四五年(家)第一七一号事件)の各記録に、申立人代表役員水野永明ならびに亡園部大仙相続財産管理人横田喜一の各審尋結果を総合すると、

(1)  ○○宗○○寺は福島県○○郡○○町字○○△△△番地に本堂を有する寺院であつて、開基後約五〇〇年以上を経た古刹であるが、その住職は、明治時代以後は、件外松本玄良が、その死後被相続人園部大仙の父亡園部海仙が各勤めてきたが、父海仙は昭和九年一二月一〇日死亡し、同人の妻妙至との間に同五年五月一二日出生した長男大仙は当時まだ幼少であつたため、法類である他寺の住職がしばらくその住職を兼務していたが、右大仙が成人し修業後住職の資格を得、また○○寺も宗教法人法の施行により昭和二七年に宗教法人となり、昭和二九年七月六日大仙が申立人宗教法人○○寺の代表役員に就任するに至つた。

しかし右大仙は同三二年一一月一九日当二七歳で自殺し、妻子もなかつた。

そこで以後申立人が、無住の寺となるので、件外実方崇良がしばらく右住職を兼務したが、その後水野永明が代表役員に選任されて現在に至つている。

(2)  亡大仙の父海仙はその妻妙至との間には子は大仙のみであつたが、先妻スミエ(大正一二年七月一六日死亡)との間に一子宏(大正三年七月二一日生)を儲けている。

しかし同人は昭和一四年八月一〇日死亡し、また妻妙至も同二〇年四月一三日死亡し、右妙至の養子となつたミチ子もまた同二一年七月二三日死亡している。従つて、被相続人亡大仙の兄弟姉妹はなく、また直系尊族及びその代襲者も全く在世しておらない。

(3)  本件不動産は、もと○○寺住職であつた件外松本玄良の所有であつたが、同人死亡によりその子松本正春が家督相続して所有権を取得し、同一八年一一月二〇日亡大仙が右正春よりこれを買受け所有権移転登記を経由したものであるが、そのうち別紙目録記載(3)の畑は申立人境内地の北下手に隣接しもとは畑地として耕作していたが、その後境内の塵介などの掃き捨て場として使用されて現在に至り、また同目録記載(1)及び(2)の畑は、申立人境内地に続く墓地の南上手に隣接し、小作地として他に賃貸し、その小作料は申立人の収入と併せて亡大仙らの生活の資としてきたもので、使用の外観上は全く申立人所有の境内地等と区別できず檀家の者たちも本件不動産を申立人の所有地と信じて疑わないで現在まで経過してきたこと。

(4)  件外亡松本玄良は○○寺の数代前の住職であるが、明治四三年に右寺の墓地東に隣接する同人所有の師範場の山林二筆七反余を右寺に寄附していること。

(5)  申立人檀徒総代横田喜一は昭和四四年三月一四日当庁に相続財産管理人選任を求め、(当庁昭和四四年(家)第三二七号)同人が管理人に選任され、以後同管理人において管理事務が遂行され、さらに同管理人から同四五年五月二九日になされた相続人申出の公告の申立(当庁同四五年(家)第一七一号)により、当裁判所は同四五年六月三〇日相続権主張の公告をしたが、その催告期間が満了した同四六年二月五日までに相続権を主張する者はあらわれなかつた。

そして、申立人は右催告期間満了後三ヶ月以内たる同四六年三月八日適法に本申立をし、かつ、他に特別縁故関係を主張して本相続財産の分与を求める者はいなかつた。

(6)  なお、被相続人大仙の父亡海仙は生前件外亡村田ハツと情交を結び、一子村田芳安を儲け同件外人は在世しているが、しかし右芳安は父海仙から認知されていない。そして、右芳安は本件遺産が申立人に分与されることについて全く異議をもつていない。

以上の事実が認められる。右認定に反する証拠はない。

従つて、本件遺産は被相続人大仙の死亡により、他に相続人は全く存しないことが明らかである。

そこで申立人が民法第九五八条の三第一項に定める特別縁故者にあたるかどうかの点につき考えるに、同条が新設された由来に徴するときは、宗教法人たる申立人を被相続人亡大仙の特別縁故者とするには疑いをはさむ余地が全然ないわけではない。しかしながら上記認定の諸事実を総合すると、申立人住職はもし亡大仙に子係があればその者が世襲したであろう特別な関係にあり、本件遺産の所有権移転の経緯よりみてもその前主と申立人との間にも前同様の特殊な関係があること、本件各不動産の位置が申立人境内地に隣接する位置を占め、その利用関係も、申立人所有の他の不動産と外観上ほとんど区別できない状態にあること、過去において、申立人の前住職松本玄良が類似の隣接地を申立人に寄付した例があること、ならびに本件不動産につき唯一つの血縁者である件外村田芳安をはじめ申立人の檀徒らもこれを申立人に分与されることは何ら異議をはさんでいないこと、以上の実情にあることを彼此考察するときは、本件遺産を相続人なきものとして国庫へ帰属せしめるよりは、むしろ前記のような特別な関係にある申立人に分与することを被相続人大仙もまた望んでいるものと推測することは、常識に合うと言えるから、結局同条の特別縁故者にあたると解するを相当とする。

よつて、申立人の本件相続財産分与の申立は理由があるのでこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 林田益太郎)

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